廃道日記(Riding・Report)



誤算。夕闇迫る峠、ミスがミスを呼び、身動きが出来なくなる。




廃道日記 22
「稲沢隧道と真名畑隧道」
〜其の壱〜





 常磐炭坑という一大鉱業が栄えたいわき地方。


地質を読み、

地下水脈をかわして

穴を掘る能力も経験も豊富な技術者達は、

交通の分野においても

その力を発揮したと思われる。



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このデータは、
あくまでおいらの走ったルートの
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走行距離は主にバイクで測定し、
旺文社発行のツーリングマップルにて無断で補正しています。
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 プロローグ

 その存在を知ったのは、茨城県道218号線「一本杉峠」検索の折りだった。
盟友あづさ2号氏のリンク先である「TWな気分(管理人:やす氏)」の福島県版で、である。
「福島って楽しいなぁ。まだこんな所があるのかよ」
 常磐炭坑という一大鉱業が栄えたいわき地方。地質を読み、地下水脈をかわして穴を掘る能力も経験も豊富な技術者達は、交通の分野においてもその力を発揮したと思われる。
 浜通りと中通りの真ん中にある町、東白河群。
この比較的近距離にある二つの隧道は122年の間を置いてその技術が継承されたことを示すのかも知れない。



農業倉庫から西に折れる。直進の舗装路は国道118号線。


 予感 2

 それは「一本杉峠」の帰り道、常磐自動車道日立中央インターを降りて、茨城県道36号線を登り始めた時に現実の物となった。
 時計は既に2時を過ぎていたのだ。国道349号線はスムースに飛ばせる良い国道だったが、県境に辿り着くまでは予想以上に時間を要した。
「勿来から御斉所峠を越えた方が速かったのでは?」
と思うほどだったが、やはりあちらも遠い筈だ。
 矢祭町で118号に合流、直ぐに西側を平行に走る県道230に入る。
 そしてこの日、MRはここで現在に至るまでの決定的なミスを犯す。米山(456m)の麓を通るこの廃道、県立塙工業高校の三叉路から曲がり、西側から入るのを
「後回し」にしたのだ。
 
普段なら「危ない方から様子見」という個人的セオリーを黙殺したのである。

 後から考えるに、先にネット情報を掴んでいた故の慢心としか言いようのない行動パターンである。
 アタリだけ確認しそのまま県道230号線を直進、すぐに国道118号線に再合流する。
 お目当ての場所は直ぐ見付けたが、念の為300m程先まで走ってターン。
ほぼ予測通りの路地から進入する。

 それにしても、事前に何があるか解らなければ間違いなく素通りする程に狭く、普通の農家の裏山にゆく道にしか見えない。明治28年頃に、何故ここにこの道が必要なのか理解に苦しむ。

 埋没 3

 もはや林道というより作業道の名称が妥当な山道、道路右手から入ってきた道が合流する。
 走りながら振り返ると隣の家の庭先に出そうだ。そして民家方向から明確に轍が道路に割り込んでいる。
「生きている山なんだ」
 間伐寸前の杉林が縦長の風景を作り出していた。営林管理のために軽虎が入るのだろう。10%を越えるだろうか?なかなかの急坂は、轍に沿って出来た小さな渓谷がバイクの足の勢いを失わせてゆく。上り坂が縦長の風景を更に長く遠く見せている。


この辺の木は太い。まるで防風林の風格だ。
先の明るいところが合流三叉路。


合流すると何故か木がホソっちょになった
よーな気がする?。


ガッつり落ちたスギの葉っぱで解らないが、
V字溝に堆積していて、踏み抜くと深い。


カメラは見上げてません!
普通に立ってこの角度とは・・・。



あ、キタ!?







おお〜〜っ!?
ヒ、一つ目の巨人か?、



 その急な坂道のゆるいコーナーの先に、まず目に飛び込んで来たのは10mはあろうかという白亜の崖である。
 次に縦長の「普通の」通行止め看板、その奥に僅かに覗いた坑口・・。
「稲沢隧道・・」
 明治28年竣工と言われる隧道は、ほぼ埋没して、抗口の突端がわずか80センチ程地表に覗いた形で現れた。
 バイクを置いて・・・と旧坂でスタンドが起たないので一速に入れてエンジンを止める。






「稲 沢 隧 道・・」

静かな空気と密やかな野鳥の声が聞こえる。
エンジンを切った瞬間から、まるで時間の流れが止まってしまったかのようだ。
 既に日は傾き、崖の陰が伸び始めていた。写真を撮りながら接近する。通行止めの看板の持ち主は棚倉町。その手前に軽虎の回転スペースと思われる平場がある。
 古い倒木とともに土砂に埋もれる抗口はコンクリート被服だが薄い。銘板も無く現地では路線名や隧道の正式名称も解らない。



瞳の奥の真実。
隧道内の水溜まりに反射した風景が、西側の坑口と鮮やかな若葉を映し出す。


 崖から落ちている土砂、崩落は現在も進行中と思われた。近頃地震が多いので注意は必要だろう、と思いつつ奥を覗きこむ。
「まだ閉塞はしていない様だ」
向こうの抗口を確認。路盤に思ったより平場が残っていそうだ。



貫通確認!思ったより荒れて見えるが。


 タイムアウト 4

「反対側から来た方がいいかな?」
 あちらの抗口は埋まってないようだった。悠久の時を堪能したMRは、広域マップルを広げると山裏の「稲沢」とよばれる沢沿いに点線が続き、他にも交差する山道が見て取れた。この時、既に県道から戻ろうと言う意識はさらさら無く、MRは更に700m程北にある山道から尾根越えを考えたのだ。

 セオリー通りに来た道から分岐(MR的に同じ道へは戻らないのだ)すると、明らかに隣の家の庭先から国道118号線に出た。縁側に佇むご老体が、タイムスリップして来たデロリアンでも見るかのような遠い目でMRを見つめる。軽く会釈して早速急行する。
降りてくる途中で、役場のサイレンが鳴っている事に気が付いた。
「サイレンて・・・5時?」時計は4時半を指していた。
 夕方神様に買い物を所望された事をイヤイヤ再認識する。約束を違える事はきっと万死に値するだろう。
「大丈夫だ、近道するのだから・・・」


さあ、裏に行くぞ!


よしよし、これなら行ける!


だ、大丈夫かよ? ホントに、本当に、ほんとうぅうう〜〜にぃ?


 
だが、最初こそ中々の調子だった里道は、一本(一組)の倒木を境に豹変する。マーフィーは忘れた頃にやって来たのだ。

 倒木越えの先は特に穏やかだったのに、直線の先を曲がると急勾配と10本はあろうかという倒木の嵐だったのだ。何とかバイクを押せば倒木を潜って押して上れそうだ・・が?
 定石通りに自分の足でルート確認のためにその坂を登ると、坂道の頂点で2本の丸太の倒木が道を塞いでいた。そこから隧道に向かう方向に軽虎がやっと走れる幅の道は尾根筋になるものの、さらに数本の倒木が見て取れた。
突破には1時間を要するだろう。

 深い溜息を漏らすとトドメのアラームが夕日に沈む山道に鳴り響いた。
「5時だ・・・帰ろう」
本当にここで帰るのか?>俺。



約束を違える事はきっと万死に値するだろう。
約束を違える事はきっと・・・・
約束を・・・
・・・帰ろう。


帰りは谷落ちしそうになったりして。

泪を呑んで撤退!!


マジやばい!(死語>既に埋葬済み)


1.2.3・・6.7.8・・・・


数えることが、空しい・・・。




廃道日記 22「稲沢隧道と真名畑隧道」〜其の1.5〜


 再訪 5

 再訪は実に2ヶ月を過ぎたGWの5/3となった。
 だが残念な事に、この日も午後から予定があり昼頃には帰宅というのに真名畑の旧隧道も見ようという無謀な過密スケジュールを組んでみる。
 それを可能にするのが高速1000円なのだ。コレでいきなり白河まで出る。 白河から棚倉方面に出るのに幹線道路を使うのは希だ。真名畑に出る最短ルートと言えば無論八溝山。朝7時には既に旗宿金山林道を越え、犬神ダムの湖畔から厨川林道に突入する。
 早朝のロングダートで写真を撮影しながらの林道走行は時間がかかり、真名畑八溝林道から真名畑の部落で県道162号線に合流した時には既に8時を過ぎていた。

 
あの日、決定的ミスを犯した県立塙工業高校の三叉路を素直に左折し、米山(456m)の麓、西側から稲沢を目指す。途中で唐突に林道標柱があって驚きの急停車をする。
「林道稲沢北山本線」
 舗装の町道・村道の類と思いきや、道はどうやら舗装林道らしい。大森林地帯の一翼を担う郡部らしい展開である。待避所の標識こそ無いが1.5車線の舗装林道は頻繁に待避所が現れ、時折現れる対向車をうまくやり過ごす事が出来た。



村道かと思ったが林道だった。


延長4.082Km、幅員3mとある。
本線と言うからには支線もあるのだろう。
比較的新しい標柱である。
 水路ではない川らしき場所でバイクを停める。欄干代わりのガードレールに「稲沢川」とある。
「ここだ」
 TTRを置いて撮影を済まして振り返ると川沿いの一軒家にどう見ても不似合いな程の車が止めてある。橋のたもとが丁度待避所なのだが、もはや待避も難しい程に6台ほど路上駐車もとい路肩駐車がされている。ジムニーが多い。
 いかにも玄人好みなウチと同型のジムニーはバンパーが交換され、ウォーンU1200?のウインチが架装されている。しかし車内に目を移すと気になる物が積んである。
「・・・・・」
何ともイヤな予感が・・・。
いやいや、既に時計は9時を指そうとしている。躊躇している時間はない。
「MR、逝きまーす!!」
(いまさらそのネタかい<俺)
 隧道に向かう道は思ったよりも道の形を成しており、路肩を補修した跡もあった。これはまあ、道路の保持ではなく川への土砂流失の防止だろう。
 撮影のためバイクを停めるその時、まさに天から声が耳をかすめた。
「〜〜いか〜ん」
な、なんだ?この脳天に響く声は!
「〜〜らは、いか〜ん!」
これが伝え聞く所のネ申の掲示なのか!?
天を仰ぐシールド越しに見えたのは…何処の神様?いやいやいや、爺イ?
「ここから入っちゃ
 いか〜〜ん!」

慌ててエンジンを切ると、拍子抜けする程に普通の怒鳴り声だった。



稲沢川の袂に入口が?
撮影位置には路上駐車の車が・・・ジムニーと軽虎と・・何の集まりだ


あからさまに怪しい?
ガードレール消失と共に道も亡くなりそうだ。

「はい〜〜!? 何ですって?」
 川沿いの道床から約3m程上がった法面の上に少し突き出た松の木まで、その爺さんは駆け足で降りてきた。
 しかしご高齢にも関わらず息の乱れも殆どなくシャンとしている所を見ると、相当山歩きに手練れた老人であろう。いや、もしや山神様か!?。
「ここは今日鉄砲ブチやってんじゃ!入ってくんな!戻らんけい!」
 そう、先ほど下に集まる車の荷台で見た物・・・それは猟犬・・イヌを運ぶ檻だったのである。予感的中だ。
 それでも往生際の悪いMRはその山神様に言ってみた。

「あのぉ、この先にトンネルが在ると思うのですが知ってますか?」
山神様は、な、なにぃ!?と顔を歪めて、
「バイクで逝けゃせん!いいから戻れ!撃ち殺されっど」
それ程近距離で狩猟がされているのか?、流石に殺されると言われてまで居る訳にもいかないので
「戻ります、すいませんでした」と言いつつ、撮影して一目散に退散した。

 あまりの展開に林道を出た所で一服しながら状況を整理する。どちらにしても、場所は正解ながら今日の接近は不可能となったのだ。 ニコTは、次を目指して走り始めた。



色んな意味で「アタリ」(TvT) これで晩秋に再訪が決定した。

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