廃道日記(Riding・Report)



古の鉄路は、震災を克服したか?





廃道日記38-1「再訪、原町森林鉄道"新田川線" 





 原町森林鉄道。

福島県において
最大規模と謳われる森林鉄道は
かつての御森を切り開き、
明治・大正・昭和と
関東圏に木材を送り込んだ。

ただ、
この新田川線だけは
発電利水の為に建設され、
後に鉱山会社に
利用されてゆく。

原町森林鉄道の路線中
最も高規格な路線、新田川線。

原発災害後、
初めて入り込む
「林鉄の楽園」は
まだ生きているのか?




●プロローグ 新田川線とは?
 昭和4年(1929)、既に阿武隈山系に多くの路線を敷設していた原町森林鉄道が、全く新たに新田川線(現 助常林道平の沼線 林道日記No-32)の敷設を開始した。
 そのルートは現在の大木戸から分岐し新田川沿いを遡上するものである。
 馬場線が営林の前に石材産出と言う付加価値が先に在ったことに対を成すように、新田川線にも後世の為の「電源開発」という使命があった。
 特に原町はその地形上の有利から電波塔や製糸工場が建設され、日本鉄道が原町駅とともに進出すると都市圏に近づき。それに呼応するかのように電気に対する需要があった。
 また戦時中は陸軍が兵士訓練の為の飛行場を造り、戦中/戦後には新田川沿いの高倉鉱山より鉱石を運び出す為に使われたりと、その後も益々電気の需要が伸びてゆく。
 戦後はパルプ業の発達と産業の地域拡散により、さらに大量の電気を使う機械産業が台頭を始める。



消防倉庫が目印の路地。
ええと、どっちだっけ?



東北電力石上発電所の看板発見。
ええと、右折だっけ?


取り敢えず看板に添って発電所へ。
地名では知ってるが、発電所を見た事がないのだ。


部落の西に奥へと向かう。新田川の方向だ。


川沿いに巨大な除線作業所が幾つも造られていた。福島の現実がここにもある。
 
こうして、新田線は東北電力石神発電所と共に他の軌道と違う道を歩み始める。
 新田線の開設には動力車の登場も見逃せない。それまではまさに馬力で、登りを馬にトロッコを引かせて登り、原町〜馬場横川入間の移動時間は4時間(現在は車で20分程度)下りは自力慣性で下り、平地でやはり馬を使って貯木場まで引いた様だ。
 その後、新田線と同様に馬場線とかにも動力化されて機関車が入線したと思われる。

 新田川線は営林と共に「電源・利水開発の資材を搬入、管理する」「戦争に必要な資材の輸送」と言う国策のもと、他の森林鉄道とは桁違いの高規格鉄道として開発され、それ故に現在でも土木遺構が類を見ないほどしっかり残っているのである。

●新田川線 起点を巡る。
 2016年1月。
 お正月とは思えない日差しが日の当たる部落の路地を暖めていた。その路地の角に
「石神発電所→」という古い木の標識を見つけた。
 最初に訪問したのは震災前なので、カルく6〜7年前だろうか?震災によって手の入らなくなった山々が、目前に続いている。
 かつて幾人ものオブローダーを魅了したこの路線、有名どころで言えばこの路線を最初に探索した「街道Web(管理人TUKA様)」を始め、業界のカリスマで起点〜助常区間を踏破した「山さ行がねが(管理人ヨッキれん氏)」など、その総てが「震災前」の風景であった。

 今回は可能な限りバイクでの起点から遡上を目的とし、鉄橋は無理でもせめて隧道くらいは見たいな?程度の意志薄弱さで、前回2009年との比較も交えてレポしてみたい。



「何故水田?」正月に何故田圃に水を張る?。
その先に全くやる気のないゲートポールがあるが・・・?


何か変な立て看板が立っている。


29年前の大河ドラマかよ。
もはや訪ねる人もいないんだろうなぁ。


これが石神発電所。

 あら始め書き記しておくが、
これは「撤退レポ」である。(うう、悔しい・・・)
と言う訳で「レッツラ・ゴ〜」

●キチガイとマチガイ
 と言う訳で「レッツラ・ゴ〜」とは言った物の、実は入口の印象が薄く、平たく言えば迷い初めであった時にこの路地の角に
「石神発電所→」という古い木の標識を見つけたのだ。
「ええと、発電所から行けたっけ?」
 神社の前を通り、民家の路地を抜けてゆくと除染仮置き場の工事塀が現れた。勿論始めて見る風景だ。
その奥に最奥の民家と、正月と言うのにガッツリ水の張った水田が現れた。その裏は、言わず物がな新田川である。
 簡易なゲートにはチェーンすらなく、易々と川縁の一本道を進むと少々くたびれた案内板が現れる。
何々・・・
「1987年 昭和62年NHK”独眼竜政宗ロケ地・・・」
 つくづく思う、こういう所を探すのって大変だよなぁ、実写の場合は。

遥か新田川上流から取水し下流のここで標高差を使って発電している。


 森林鉄道は導水管の上(矢印の遥か上)に通っている。
そして案の定
「ここからは取りつく島も無い」




消防倉庫まで戻り、直進する。
途中、浄水場の入口があるが思い当たらず。


何時の間にソーラー発電所が!

 丁度看板の所からは河川敷に降りるスロープも在った。看板を読んで再び正面に目を向けると、そこには地図通りに石神発電所が鎮座していた。発電所の奥にある巨大な導水管に見覚えが有る。
「あれだな」
 
その全体の真ん中やや上に、問題の道が見えて来た。やっぱりここからは登れなさそうだな?
 
「石神発電所導水巡視路」がおそらく現在の正式名称なんだろうと思われるが「原町森林鉄道新田川線」である。

 地図を見ながら目星を付けると、一旦部落まで戻るMRであった。
 水道施設前を通過し、悪茶轟は一路進路を西に。
 やがて、太陽光発電所の辺りから路線導入路を見つける。
 そこはX字の十字路で、現在の市道と交差するかつての鉄路は既に消え、今は下に降りる明らかに自動車用の切り通しとなっていた。
 その路地を右折、一時石神の部落から急速に西南に遠ざかろうとしたMRは再び北東にターンする。



今来た舗装路にクロスに交わる砂利道。
これだ!これが路線跡だ!
空いてて良かった。「松落合線林道」



「故障中」の自動放射能検知器
「長時間の滞在を禁ずる」旨の立て看板。
大丈夫か?


「松落合線林道」を行く。廃鉄臭は収まるものの、その路盤は道の原色を失わない。

 道路左(西側)は植林の杉林だ、まずその季節には来たく無い森だが道自体は道路東側の部落側とも一線を画した独立した「堤」となって、ほぼ均一の水平を保って、MRを誘う。
 これは、明らかにレール敷の路面の特徴だ。一直線にダートが続いている。
「匂う、匂うぞ!」
 この香りは林鉄の・・・じゃない田舎の香水?豚舎が現れる。



直進の振りで実は左の林鉄跡。ダートが続く。


路地で一時的に舗装路へ。さらに!先へ。



写真右の銀の屋根が養豚場(現役だよ)。


沢を挟んで今度は浄水場。いいのかこれで?


ここで悪茶轟よりKLXを切り離し。
予定周回軌道に突入させる。


土場までは割と普通の林道風景。普通車通行可能。

 「松落合線林道」は豚舎の入口に一直線と見せかけて、緩やかに左コーナーなのだが、明らかに廃道っポイ。
 どー見ても廃線後にクランク化された様な線形で沢越えすると、何やら幾つものタンクが見える。
 そして林道と言うか元軌道は先ほどの水道施設の最奥部をかすめて、大きく左に蛇行し始めていた。
 そこで
ここに悪茶轟を停めて、KLXを降ろす事とした。
 もう少し先に、そこがかつての土場で在った事は想像に難く無い広場がある筈だ。装備を万全に、走行を開始する。
 道はゆっくりと北から西に回り込み、奥に見える山並みが先ほどの石神発電所から見た風景に類似して行く。

●原発荒廃
 土場には、幸いにも誰もいなかった。そのまま進もうとして、慌ててKLXを停める。ipadminiのやまやまGPSを起動しながらその先を眺める。



「松落合線林道終点土場」クルマはここまで。



「2009年の終点土場」斜に見えるのが導水管。
(Photo:2009.3)



補強の板の部分を渡る。
震災以降メンテナンス無しだな?



これがあの石神発電所の導水管渡り。

「橋が・・・?」
おかしい?

歩って確認すると、老朽化である。
 大分虫食いが激しい。総重量125Kgはあるマシンに耐えられるか?
「ここだな」
 実際に体重を掛けて撓まないコンパネを張った所がある。ここなら大丈夫だろう。念のため押して通過する。

 目の前に先ほど石神発電所の導水管が現れる。コンクリート敷の橋で導水管を越える。山の斜面一杯を使って1mくらいの鉄管が恐ろしい角度で谷底に向かって降りている。
立ち入り禁止のフェンスに
「蛇穴鍾乳洞 1,7Km」という木の案内板が下がっている。
「そこまで行けるだろうか?」 バレル4のエキゾーストが一声こだまし、奥へ分け入って行く。
 すぐ最初の切り通しは落石だらけ、これを抜けると見事な石垣の擁壁が現れる。高さはこの時点でも細大8mくらいか?



もうほぼ頂上付近だが、実はまだ10m以上
ありそう。



「蛇穴鍾乳洞 1,7Km」


発電所まで、遠い。すげー遠いな。
石神発電所の竣工は昭和19年、戦時中だ。

 何気に最後は倒木滑り台、腹這いに上がると滑って谷に真っ逆さまなパターンをファイト一発切り抜ける。
 
このパターンを皮切りに尾根の形に添って凹凸が続いて行く。
 即ち「凹」が谷筋で超高く石垣の組まれた「堤」もしくは谷沿いの石垣区間で、「凸」は山脈の末端の突端にあたる部分となり、その粗方が大小様々の「切り通し」もしくは突端の「崖」である。
 この凹凸パターンが崩壊の度合いこそ違えど順繰りにやって来た。
そして最初の
「たまに直線ポイのが現れた!」と思った先は、ほぼ路盤の上に土砂が堆積している状態だった。
「これは・・・こりゃ行けるか?」
 取り敢えずバイクを置いてその先の凸部まで行ってみると、その先の路盤は大丈夫みたいだ。



「新旧の路盤に見える」新田川線の敷設は昭和4年、
発電所の竣工は昭和19年。ルート変更もあり得るのかな?

(Photo:2009.3)



「早速キターー」しょっぱなから、鮮やかな3段の要壁。
「凹」区間の見本例。谷筋で超高く石垣の組まれた「堤」もしくは谷沿いの石垣区間


「いい塩梅に荒れてる」


まさに「落ちたら死ぬ」空中回廊。

 
さて、ここら辺から2009年3月の初来訪時のレポートも組み込んでゆこう。
 そもそもこのルートは、当時の助常林道レポのスピンオフとしてトツゲキした企画である。
 当時既にヨッキれん/くじ両氏によって新田川線の状況は完貫が無理と解っていましたが、起点側は高倉鉱山の対岸付近、旧取水口周辺にある
「第一隧道」まで辿り着き、通過する事が目的であった。
 無論その先にある
閉塞した「第二隧道」や更にその先にある「第一鉄橋」は、まあ見られればいいな?程度の話と考えていた。
 ちなみに、2009年当時と言えば愛機は、今は無きTTR269改である。



「続いてキターー」ここも、鮮やかな3段の様僻。



「これも発電所がらみか?」
よくこれだけのコンクリートを打設したよな?(Photo:2009.3)



岩の間にガッツリとコンクリートが打ってある。
これは一種のダム?



下は明らかに水路の佇まい。
何らかの設備は間違い無さそう。



「崩落した路盤を越える」
おお、懐かしい写真だな。(笑w(Photo:2009.3)



殆ど変わらないまま、まだある崩落箇所。
同じようにKLX125で越える。


 
今年2016にKLX125を持ち込んで見て付くづく思うのは
「よくもまあ、あんな大きな単車で入ったものよのう」という爺むさい思いであった。

 2009年の写真と比較しながら、2009年当時の写真も交えて書き出してみます。
背景が青の写真は2009年撮影分(一応写真下のコメント参照)となります。また当時の追加文章はこのような青文字となります。

●滑落寸前
 KLX125でさらに前進する。2009年とほぼ同じダム施設のある先の路盤崩落を乗り越える。
 いくらか風化した感じもあるが、ほぼ当時の間まだ。空気圧1hpcのなんちゃって虎タイヤでも難無く乗り上げる事ができる。
 べったり足が付くので恐怖を感じない程だ。
 その先は微妙に道が流された跡のある直線が続く。ここも前に来た時と殆ど変わらない。
 むしろ前よりなだらかに成ったかのようだ?難なく通過する。
崩れたとは言う物の。路盤の道幅は実に正確にして明瞭だ。
もしかしたら昔の360cc位の軽虎が通れる道幅を、軌道廃止後、最終的に拡幅されたのではないだろうか?という感じがする。

 残っていた物もあれば無くなった者もある。
当時見事に谷底行きだったこの倒木も、2016年には見つける事が出来なかった。同じように見えても、少しずつ変わって、もとい廃れてゆくのだろう。
 
この時のこの倒木は、越えるのにバイクを谷底に落としそうになった覚えがある。日中ダムの二の舞を演じる所であった。



微妙になだらかに続く路盤。微妙に動く崩落土砂。
(Photo:2009.3)


「殺しに来てる」こりゃ日中ダムの二の舞いだね。
(Photo:2009.3)

道幅も安定していて、まるで現役のようだ。
(Photo:2009.3)


「眩しいご褒美」完全にニンジン
ぶら下げられてる?(Photo:2009.3)


 崖に登る要領で狭まった所にフロントをねじ込ませてエンジンを丸太に乗せ上げれば俺の勝ち!こんな調子で丸太を越えて前進してゆく。
 無理して乗らずに押し上げる事も重要だ。
KLX125はとにかく軽いので、押し上げも重要な戦


電柱を入れたコンクリ基礎発見!


略。それでも単独なので無理強いはしない。

 二つ目の凹凸を過ぎると三つ目の凹も見事な3段の石垣である。中央山側のフェンスにはコンクリート要壁と階段があり、どうやらこの上に発電所に繋がる導水管かオーバーフロー用の水路があるのだろう。
 と言う事は、まずココ越える訳であるが。
 路盤はほぼ土砂崩れで埋没ながら、幾人か歩いた跡が有る。そこを道筋に危ない浮き石を撤去し、10分程掛けて一筋の道を造る。暫くぶりの土木ライダー仕様でラインを作って行き、無謀にもフロントアップで岩に上げようと・・・
「いやいやいやいや落ちたら死ぬから」
 
眼下には遥か彼方に新田川の整流が、というか水面も小さく光ってるぅ。
 
この絶体絶命の危機を乗り越える事ができるのか?
 また愛機KLX125は何処まで行けるのだろうか?

うわ!!なんかヤバい!「こりゃマズイなぁ」

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