温泉ツーリングスポット


木賊温泉
露天風呂(2011)

(福島県)



シルクバレーキャンプ場から約5分の天国。



●素晴らしい朝風呂
 携帯のアラームが鳴る前に目が覚めた、時計は4時55分を表示する。
 ゆっくりと背伸びすると足がツリそうになる、これを阻止しようと寝袋の中でのたうつ姿は傍目に見れば芋虫のようだろう。
 シルクバレーキャンプ場はアウトドアを楽しむ方に人気のキャンプ場である。これを読むライダーで利用された方も多いと思う。
 オフバイクにとっては、まさに
天国に近い林道地帯(別に死にそうなほど危険な林道ばかり、という意味ではないが、軽くヤバい所もある)と言える南会津、木賊温泉川縁露天風呂が在る西根川を約2Km程遡った所にある。



木賊温泉共同浴場(川縁露天風呂)入口。


その横に急な階段が在る。
ハッキリ言って「手摺が在るとラク」鴨



急な階段、林の中は夜の風情。


街灯の所は分岐。写真右上に向かって
温泉神社が奉られている。
建物が見えて来た。


 
今回ここにキャンプしたのは、無論10年振りとなる木賊温泉川縁露天風呂に浸かるのが、その最大の目的である。

 既にレポートにある温泉であるが、節目的に丁度いいな?と言うカンジである。他の温泉の定点観測的にやろうかな?なんて寝惚けた頭で考えながら用意をすると、もう5時半。
 なのに車の排気音が聞こえる。
「温泉かな?登山かな?」
 流石に場内は未だ就寝中だろうから、静かに出ようとするが、このキャンプ場、県道から2m程低い所に在る為、とてもバイクを押して何て出られない!ので、諦めてエンジンを掛けて出る。

 日の出前の、未だ薄暗い部落の中程にある共同浴場駐車場には、既に3台程の車が駐車していた。
 ウチ1台はキャンピングカーである。「ここに泊まったのか?」
 キャンプ場がすぐ近くにあるのだから、場所を考えて欲しいと思う。

 駐車場から川縁露天風呂に降りる急な階段がある。この時間だと明るい地上から闇に落ちてゆく感覚がある。駐車場から見える筈の川も闇に紛れ、沢音だけが人のざわめきの様に聞こえて来る。ぽつりと物悲しい街灯がコンクリートから石畳に変わった階段を照らし出す。そして分岐が現れ、温泉神社の方にもいつの間にか通路が出来ている事を確認する。
「前には無かった様な気がするな?」
 その先に、夢にまで見たあの入口が見える。

 この年の7月、福島県会津地方と新潟県の県境には3日間に渡り記録的な豪雨が降った。いわゆる
「平成23年7月新潟・福島豪雨」である。
 7月26日に降り始めた雨はやがて豪雨となって西会津地方に降り続けた。
 只見町ではこの3日間の総雨量が500ミリとなる集中豪雨となって只見川が氾濫、JR只見線では会津川口駅と会津大塩駅間で橋桁が流出、鉄橋が崩落したほか、会津坂本駅、会津柳津駅間で路盤が流出し、会津坂下駅と大白川駅間が不通となっていた。
 隣県の新潟県三条市の3日間の総雨量は実に1000ミリというから想像を絶する雨量である。実際、昨日に帝釈天林道を抜けて桧枝岐村に入ると、至る所で土石流が発生した名残りが!
 村のメインストリートこそ無事だったが、至る所で民家の裏まで土石流が迫り、あるいは家や道路が流され、その余りの破壊力と広範囲さに絶句した所であった。

「無事だったか・・・・」
 看板や入浴金入れ(いわゆる賽銭箱)もちゃんとある。内心ホッとして財布から小銭を取り出すと賽銭を入れ・・・・て?
「あれ?あんな石・・・?」
何だか覚えが無い。


「あんな石、あったっけ?」



「あんな石・・・?」


乳頭
入湯料金箱の後ろに控える、この巨石は・・・?。


いい。まさに温泉情緒。


 ・・・・・・・。
 ま、疑問はともかく、この時間は流石に入浴してる人が僅か二人しかいない、好機だ。
 しかし4枚目辺りで、次の客が入って来てしまう。うわぁ、団体様の御着きだ、一瞬にして撮影ポイントを失ってしまう。
 仕方が無いので長期戦に突入。客の回転を読みながら、お客さんの話に聞き耳を立てつつ、温泉を楽しむ。
 一番奥、つまり上流側の石で誂えた湯舟の下が、この木賊温泉川縁露天風呂の湯元である。浴槽の下に敷き詰められた拳大の丸石の隙間から、泡と共に熱いお湯が湧き出ている。石も加熱している物が在るので、温度を確かめながら座る場所を決める。
 外傷の他に痔にも効きそうだな、コレ?などと思いつつ、お湯を楽しむ。
 湯元の暑さの割に適温なのは、川の水が混入するからだろう。実際、玉石転がる浴槽の底は、川より低いだろうか?。
 ここで旅人や村人の話を聞くと、
何とこの年は例年より多い3回の湯舟補修が在り(11'10月頭の段階)雪解け始まりの清掃の1回以外は、沢の氾濫で建物にダメージを受けたのだと言う。
 

玉石の下から泡と一緒にお湯が沸き出す。
耳を澄ますと「ぽこっ」というカワイイ音を出す。
何かいーねー。


川上の湯舟から上流を望む。朝霧の瑞々しい風景。


良く見ると柱や筋交いが真新しい木材に交換されている。
手前の岩場も何時しかコンクリート化されていた。携帯が朝6時を告げている。


 
鮮やかな紅葉と白い岩盤が美しい対比を見せる。
撮影側が影になる為、より一層コントラストが映える。



 川砂や砂利が岩風呂の浴槽に堆積し、転がって来た岩で屋根や柱が壊される被害を出していたのだ。

 だが、何度壊されても、村民の弛まぬ努力で湯舟は清掃され、大工が屋根と柱を直し、無償の慈愛でこの古き良き温泉を守っているのである。

 そしてあの入口の巨石は、そんな濁流からの贈り物だったのだ。怪我人出なかったのは幸いだな。

 流石の村人も人力だけでは直径1.2m、重さ3tからの石は浴室の外に出せなかった様で、そのまま浴場内に奉ってしまったのだという。

 朝6時を過ぎると、湯舟は朝のラッシュを向かえる。どうやら近くの温泉旅館に宿を取ったお客も、朝食の前に目の前の露天風呂に入りに来るのだ。
「成る程、じゃ8時過ぎると客足もオチるかナ?」
 湯舟にトップリと浸かって同じ湯舟のおじいちゃん達に話を合わせて、先程の情報の修正をするが、余りの気持ちの良さに寝てしまいそうだ、大丈夫か<俺
 話を聞くうちに、村人や旅館の客に混じって、キャンプ場のお客も入りに来た?。マテマテ、逆に入浴客が増えてないか?


転がって来た岩で屋根や柱が壊される。
村の大工が再生する。そして磨く。


一言で言えば「汚すな、乱すな」。
最近は「アタリマエ」が通用しないご時世だ。


体を冷やしながら眺める「紅葉」


色褪せる事無い川原の露天風呂。


「ダメか?こりゃ」
 止む無く、着替えて外観を撮影する。10年前と全く同じ点綴撮影。あの大岩以外は、時間が泊まってるかの様に同じ風景だった。
 変わらないからこそ値打ちのあるものもある。湧き出る温泉、守る村人達、優しい露天ファン。
 今日も心豊かになって、木賊温泉をを後にした。


分岐手前の石畳の階段。
周りには濁流の爪痕であろうか?
薙倒された下草と木っ端が散乱している。

 何時もの様に、温泉の管理責任者でもある駐車場前の酒屋さんからポカリなど飲物を買うのが「通のならわし」だ。昨日の花泉がまだあるが、流石に朝から飲酒運転はナシだろうナ?。
 部落までは完全舗装で、ロードバイクで来る方もまた多い。これだけの環境ながら入浴料は激安200円以上の誠意との事。一度はお試しあれ。

泉質:単純硫黄泉 
 源泉温度:約45℃
 効能:胃腸等消化器病・筋肉痛・神経痛など。
 内風呂:なし。
 入浴料:200円以上(志




すっかり明るくなった。朝露に濡れる野草に見送られて、駐車場まで最後の階段。