Spring Tour's 2007
 
「私をバイクで連れてって」



プロローグ
 
昔、「ろぼっ子ビートン」というTVアニメがあった。
 今をときめくガンダムのキャラクターデザインをした安彦良和という作家が、デザイン全般を手がけた作品だ。
その中に、
主人公の敵役として登場する キャラクターが今時のお父さん世代によく似ている。
その名も
「がきオヤジ」(正確にはガキおやじ)
 何を職業とするのか?解らないこのオジサンはどうゆう訳か?町内近所の小学生達と子供の遊びで張り合っている。
大の大人、いやオヤジがかなり真剣に、子供と一緒のモノを欲しがり、子供の遊びで得意満面に笑い、子供にしてやられて子供のように泣き叫ぶ。
(その声は永井一郎氏、そう、ファーストガンダムで言うナレーターとドレンの声)

このオヤジ、一体何者?
今考えると、夜な夜な株で儲けてるんじゃないのか?(急に現実的だなぁ)
そしてこの物語の主人公の名前(正太郎だっけ?)は忘れるのに、覚えやすい抜群のネーミングセンス。思わず「安彦先生、御免なさい」と平謝りしそうである。

 ほらほら、なんだか身に覚えのある話でしょ?これを読んでる貴方も。
そんな「がきオヤジ」だから、子供にとっては「お父さん」「パパ」というより「おともだち」感覚なのかも知れない。
日々成長し、次第に女性らしくなってゆく娘「マーちゃん」は、まだ約束を覚えていた。


「ステップに足が届くようになったら、バイク遊びに連れてってやる」

「合戦場の枝垂れ桜」
壱寺の猛攻。


 選挙の為に一週間持ち越した今日は、午後の降水確率がやや高めの予報だが午前中は良く晴れていた。
それ故、
「桜を見に行こうか?」
「イクーーー!いく行くスグいくぅ!」
即答で連呼されてしまった。
さて、最悪の場合に備えて、同行する1台も必要だな・・・?
「あ、行きます、今何処ですかぁ」
最近、その時折の表情がロリエさん似だと気が付いた
(実はMR、ロリエさんのブロマイドを持っている。へなりさんには公開禁止と言われている)鉄ちゃんことふぉるくろーろ氏が手を挙げた。
前に話を通していたとは言え、ウデの良い付き人が運良く二つ返事で同行する事となり、本日はほぼタイトル通りのツーリングとなった。




 急な話だったので開花具合も余り調べる事も出来ずに家を出て、ふぉるく氏と合流した。彼と走るのも一年振りである。
「MRさん、零度に二人乗りすんの?」
ふぉるく氏が首を傾げるのも無理はない。
 なんせ、BOX装備のままである。前のXLRならフレームもシート長も長く、BOX付きでも十分だったが零度は目測10センチ程短かそうだ。でもBOX無いとその辺に娘を落としそうな気もする。買って3年目の春にようやく日の目を見たホンダ純正タンデム用ウエストバックが本領を発揮する頃には、XLR売っ払らってる訳だし。
 シート高が高いオフバイクなのでまずMRがバイクに乗って両足を付ける体勢にしてマーちゃんが滑り込むように乗り込む・・・狭い。ウエストバックも逆に(つまりバック側を腹の方)しているため、BigTankとメタボ腹に挟まれて窒息寸前だ。
「大丈夫か?」と父だいじょ〜ぶだよ」と娘。
「すっげ〜キツくないですかぁ?」どうやら本人達より傍目に見た方が危険度は五割り増し程度増幅されているようだ。
「ん〜ん、全然?」とマーちゃん。
「!」え、マジ?実はきついのはお父さんのメタボ腹だけなんスかぁ〜〜〜?今、俺の背景ではブラックホールが廻っている。
え、えーと・・・
「じ、じゃあ逝ってみますか?」動揺を隠せないまま、2台と3人は出発した。



合戦場のしだれ桜

もはやフレームに人が入らない写真を撮るのは不可能と悟り、とりあえづ1枚。
凄い人出だよ、マジで・・・。




 何せ急な話なのでルートも昨年のままという勢い、まあタンデムなんて緊急時以外しない(荷物満載でやれない?)し、知ってる所の方が色々とフォローも効くので、そのまま逝く。

 国道455号線は城下町の街中こそ喧騒に溢れるが、その道路構成はシンプルで街中をショートカットするといかにも阿武隈山系の3桁国道らしい経線を見せる。集落のバイパスに当たる部分はやたらとだだっ広く高速化されるが、県道時代の名残を見せる川沿いの巾の狭いブラインドワインディングが交互に現れるルートだ。走りにくいというご指摘が多いが、MR的には好きな山道である。
 しかし今回は少々勝手が違う様で、リアの回り込みガ大きく、いわゆる尻振りの状態で曲がってゆく。ライドする本人は「少々」と言うイメージなのだが、後ろからついてくるふぉるく氏は思わず車間を空けるほどに危険を感じたらしい。
岩代町の「合戦上の枝垂れ桜」に着くなり
「なんだいMRさん、大丈夫かぁい!」と声を掛けられた。
「ちっと、重いけど大丈夫」チラリと投げた視線に怒る娘の愛の空手チョップを浴びる。
「重いのはおと〜ぉさんだ!」ハイ、ごもっともデス。

 合戦上の枝垂桜は7分咲き程度で、いよいよこれからと言う満開秒読み段階でした。驚いたのは昼間11時頃の人出である。もはや足の行き場もないほどに、ざっと1000GB程(壱寺)のジジババで埋め尽くされていました。
 
 それもその筈、いつのか間にかに奥に広い第三?駐車場が出来て収容車両が飛躍的にアップしていました。また、桜は小高い丘の中腹に鎮座ましますが、その法面は一面の菜の花畑となり、風にゆらめく黄色い花が桜とのコントラストを上げていました。写真を撮るにも寄る人並みに圧倒され「次、行こうか?」と言う事に。
 マーちゃんを探すと出店の前で釘付けだ、いかん!彼女の第二人格「春の食欲魔神」が目覚めてしまう!その魔神の意志に従って食い物を献上していたら破産するぞ。
「マーちゃん,行くぞ!置いてっちゃうぞ」
はっ!と我に返ったマーちゃんが慌てて駐車場に戻ってくる。
2台のバイクは大変な賑わいを見せる桜を後にする。








昨年は早朝だったので、スゴいとは聞いていたが?まさかこれ程とは・・・。
人、ひと、ヒト・クルマ、くるま、車・・・。もお、ええ。






 クネクネと無節操に曲がる国道がようやく開け、2台のバイクは速度を上げてゆく。
 近年出来た「道の駅さくら館」から先ほどの合戦場のしだれ桜迄の約1.6Kmは現在さくら回廊なる遊歩道が国道459号線に付かず離れず造られ、終点となる「いわしろ桜の郷(村営の販売所だが見た目は小さな道の駅っポイ)」と言う施設がある。
そのルートの中には福田寺の糸桜(枝垂れ桜の一種?)、新殿神社の桜などとともに有名無名の桜たちが人間の思惑などまるで介さずに我が春を競っていた。

 国道459号・349号と渡り継ぎ、やがて2台は国道288号線を交差し、船引町を抜けてゆくと前方に「小沢の桜」が見えてきた。
相も変わらずアマチュアカメラマンの格好の標的であった。しかし今回は先を急ぐので通過する。帰りに雨が降ってなかったら廻ってみよう。


永泉寺の枝垂桜

まだ咲き始めから2分程度の枝垂れ桜。花曇りだが?









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「永泉寺の枝垂桜」

小野町の手前、風越峠の手前にある「永泉寺の枝垂れ桜」は回ってみる。


 
滝桜の後継といわれるエドヒガン系ベニシダレザクラ。
 樹齢400年と言われる巨木は元気で、永泉寺の赤い屋根、バックの杉林の深い緑と青空を入れても十分見劣りしない。根回り5.45m・樹高12.5mはビル3階分に匹敵する高さ。

 そう、ここは例の甘茶をサービスしてくれる所である。桜はまだ開花にも達してなかったが、地元と檀家の甘茶サービスは行われていた。
 早速お茶をごちそうになり、芳名帳に名前を書いて、お賽銭を入れる。
「いい香りぃ〜」
 
まーちゃんもご満悦である。彼女は一気に飲み干すと、散歩してくる、と席を立った。
 園内を眺めると、いつの間にか地元のおじいちゃん達の桜の話を聞き入るふぉるく氏、なんか風景に溶け込んでるよ。まーちゃんはカメラ片手に園内をウロウロしている。



檀家の人と盛り上がってる?ジモティとの接し方がウマいふぉるく氏である。




プライバシー保護のため、サングラスをかけて頂きました(爆


 さて、風越トンネルを抜けるといよいよ本命の小野町に入る。
と、その前にあら始め食欲魔神に捧げモノをしなければ!と思い付き小野町町内の風雲リカちゃん城前の交差点にある食堂に入る。
 普通に食堂かと思ったら、その正体はお弁当・仕出しも兼ねてる「まるで食のコンビニエンスストア」だった。可も不可もなく美味しく頂く。ふぉるく氏にはラーメン屋と言われていたが、スマン。

本命!「夏井の千本桜」

 二人満腹になると、いよいよ零度君の挙動が気になる所だったが、流石大盛りの系譜、特に問題なく県道41号線を走り抜ける、と夏井川沿いのワインディングの先がいきなり開け、ピンク色の帯が見え始める。どうやら咲いていたようだ。
「マーちゃん、来たぜい」
「え〜?これ全部サクラぁ?」
「おお〜・・・・」語尾が聞き取れなかったが、ふぉるく氏の感動の声も聞こえる。
 ざっと川沿い両岸2kmに渡る桜の回廊と、町内中央を二分するように鯉のぼりが数百匹並んで風に靡いているのが見える。この時期の風物詩と言えよう。
少し色合いが悪いな?早かったか?と思いつつ空を見上げると、次第に雲が厚くなりつつあった。ただの花曇りならいいんだが。


夏井の千本桜

町民の努力の結晶とも言える美しい花びらが風にそよぐ。
いくら嬉しいからとは言え
「踊るな」


 零度は県道282号線のT字路に右折し、夏井川の南側に回り込む。そう、昨年間違って入り込んだあの南岸だ。夏井川と常磐自動車道の間と言った方が分かり易いか?だが残念ながら、今年はこちら側の入口が工事で通行不能となっていた。
 やむなく、桜の回廊の中央に掛かる橋まで行く事にした。
道路路肩にバイクを止め、娘と共に桜見物と洒落込む。
 この日は夏井川桜まつりということで、河川敷は賑わいを見せていた。出店は勿論、ちょうど行った時には盆踊り?のような事もしていた。
「わ〜キレー・・。川に降りてっていい?」
「泳ぐのか?」
「ンなことするか〜!
川の水に触るの」
「踊りの邪魔はするなよぉ」

 ほぼ9分咲きの桜並木はもう一回晴れの日があれば満開だろうという状態。しばしサクラに酔いしれる。
 橋は歩道専用となって転落防止の為に地元の警官が張り込んでいた。早くも何処かで散ってしまった桜が川を桜色に染めて流れてゆく。




 夏井川は、福島県東部の阿武隈山地中央部に源を発し、西流して小野町夏井地区で南東に向きを変え、いわき市を北部を横断し太平洋に注いでいる67.1キロメートルの2級河川です。
 河川沿いの耕地が土地改良事業により構造改善され、同地区の河川の改修を契機に、地区有志のみなさんが昭和50年4月に植樹したのが始まりでした。
 夏井地区、南田原井地区の有志の方々が夏井川の両岸5キロメートルに渡り、ソメイ吉野の苗木1.150本を植樹したのが、今日の夏井千本桜です。



町民が踊る長い列の間を、美しい花びらが風にそよぎ、下流に渡ってゆく。
大空を泳ぐこいのぼりに、子供たちの歓声がこだまする。



 
気が付くとふぉるく氏は牛串を所望し、召し上がっている所だった。
「この後どうする?」
「いや、MRさんに任せますよ」
「雨が不安だけど・・磐越東線に廃隧道か何かなかったっけ?」
「おおっ!ソレいいっスねええぇ〜」
「ま、天気が保てばヨシ、ダメなら帰るということで・・」
マーちゃんに了解を貰って、2台はもう少し県道42号線を南下することにした。
重圧な現役トンネルを横目に下ってゆくが、残念ながら雨が降り出した。
雨の掛からない路肩に一時避難し、雨合羽を着込む。
「仕方がない戻ろう。マーちゃん、トイレとか寒かったら言えよ」
2台は来た道を引き返して行くのだった。
 昨日はその後、例の道の駅さくら館でふぉるく氏と別れ、夕方帰宅した。
同行して頂いたふぉるくろーろ氏には深く深く感謝している。
雨合羽を着込んだとはいえ、派手な高速走行でかなり濡れていたので早々に風呂に入り休ませる事とした。無論、学校の用意は万全である。



永泉寺の枝垂桜はついに満開に見ることがない。また来年だな・・・?


エピローグ
「昨日のツーリングはどうだった?」
あまり入れ込まれても困るし、無関心でも癪に触るので聞いてみた、すると・・・。
「面白かったよ!」マーちゃんはあっけらかんと答えた。機嫌は良さそうだ。
「今度は温泉につれてってね。」
ふう、と一呼吸おいて、
「そんなには無理だな、まあ、気が向いたら誘ってやる。露天風呂辺りにな」
ふふん、と肩越しに笑ってマーちゃんは玄関を開けた。
昨日の雨が嘘のような晴天である。
 日々成長する事を毎日実感する事はない。けれど、どうやら昨日から今日という時間は何か特別の思い出になったようだ。
それが何かと聞かれると答えに窮するが、彼女の人生に於いてのちょっとしたスパイスになれば良いのではないか?と思う。
「いってきま〜す」
子供であり、少女であり、何処か大人であり・・幾つになっても、例え自分の娘であっても
「女っていうのは、謎の知的生命体だな」

さて、次は何処にいこうか・・?



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