プロローグ

まだ雨が降っていた。
 最近はすっかり単独で走る事が多くなり、雨の日は車で走る方が多い。しかも車には豪華息子様も標準装備だ。ストイックなオフローダーを標榜(核爆)するおいらとしては、少々イメージ感に欠けるが。
 などと考えつつ、どうしたものかと考えるここは「道の駅三本木」。雨の足取りは遅く、国道4号ベタ走りとはいえ、ここまで3時間以上もかかてしまった。止みそうで止まない雨にいいかげん辟易していた。さらに、わずかに屋根のかかる部分にバイクを寄せると、げげんそうに様子を見ていた同施設のオバチャに「そこは関係者以外駐車禁止」といわて、どっか屋根のある所ありますかね?という問いにも「みんな駐車場に止めてるよ」と何げに言われてしまう。
「晴れてりゃちゃんと停めとるわ、ボケがー!(`ヘ´) プンプン」と2チャン調に「心の中の中心で毒を吐いて叫ぶ」。いかん、雨天走行で気を荒げているな。
落ち着く為にコーヒーを飲んでくつろぐこと15分……(まだ雨が降っていた。からもう一度読み返す。)



10.15・16 三ッ又温泉
Repo&Photo
/MR


お得意のマネキンが鎮座まします「石ノ森章太郎ふるさと記念館」。



10/15 day's

PhotoAlbum


★これで人形が動いて落盤とか破水とかも再現できたら凄いだろうな?。


 そしてハタと気が付く。はす向かいの建物には「三本木石炭資料館」とある。正面に飾られるのはマツダT2000だったかな?3輪型のトラックである。
「古い話だな」
どうせ走りたくないのだ。見ていこう。
 これがなかなか時間つぶしに快適な内容だった。5mの10m程のホールには当時の道具や写真パネル、電動で動く立体地層表示や音声案内、トドメに実物大採掘抗道模型が飾られていた。
 丁度、国道121号線を中心とした「三島通庸」の道路を調べていた所で、明治・大正・昭和と使われた隧道掘削器具類の実物やダイナマイト、方位地図など普通なら5分で見終わる所を実に30分以上かかって堪能してしまった。しかも撮影OKである。



実物断面模型!なかなからしくて宜しい。マネキンの服も当時のモノ?
音声ガイダンスを聞くと、効果音などもあり楽しい。



入口ホールに展示される亜炭柱。
別名「漆黒のダイヤ」まさに黒光りしてる。


場内奥には当時の工具も展示される。
判らない道具もあるな。

ツルハシ・スコップ・・長い螺旋状のモノは(手動式?)ダイナマイト掘削用ドリル?
小箱はふいご、ハンマーや打ち金、トロッコの車輪などもある。


運搬用のトラック。松田製。


カンテラや電信機器。

コンプレッサー式削岩機。レンタルの日建で貸し出すモノと形や機能は殆ど変わらない。
奥に見えるはダイナマイト箱と発火装置。

堪能した!(小泉純一郎調で)。



 「そうだな?夕方には雨は止む予想だから、どこかもう一箇所博物館みたいなところがあればいいな」と、思いついた。
 日帰りの近間ならともかく、旅館宿泊で初日から林道走行でドロドロはあまりにも、である。普通の舗装路とは異質の汚れなのは避けたい。大体ガツガツ林道走る気もないので、普通に履き潰しのGパンで出てきた程だ。
 博物館に行こうと思って真っ先に思いついたのは「宮沢賢治記念館」である。4号線を花巻まで真っ直ぐ走れば着くが、雨の土曜の4号線はもう沢山だ。道の駅で情報収集すると近くに「さくら温泉」という響きの良い温泉施設がある。かなりそそられたが、山越えが控えているので辞める。風邪を引いても面白くない。二つ隣の町に漫画家石の森章太郎の
「石ノ森章太郎ふるさと記念館」を見つける。これだな。

 石ノ森章太郎は宮城県登米群中田町石森に生まれる。そう、作家名は生まれた地名から取られたものだ。 平成10年1月、60歳でこの世を去るまで多くの作品を残した。
 オートバイに興ずる者なら一度は聞いた事があるであろう「仮面ライダー」の原作者としてつとに有名である。その作風は多岐に渡り、得意のSFからコメディ・時代劇・歴史物・現代物・経済流通・児童図書からポルノにまで広がる。
 同時期の作家も多く、駆け出しの作家が一つのアパートを舞台に切磋琢磨してゆく「トキワ荘」もその筋では大変有名である。いまは神様や大御所と呼ばれる先生方を書き出せば、手塚治虫・藤子(F)不二雄・赤塚不二雄・長谷邦夫など、またお弟子さんも永井豪・竹宮恵子・島本和彦などなど(敬称略)。どなたも限りなく神に近い方々(一部ほんとに神様)ばかりである。
 石巻の「石ノ森漫画館」は既に
何度か行っているが、ふるさと記念館は行って事がない。
 また丁度東の空の方が明るいのも手伝って、ようやく道の駅を出発となった。因みに、結局道の駅三本木には1時間20分も滞在した事になる。
 すっかり冷え切ったbaja轟のエンジンを起動させ県道152・32・19号線を東に向かい鹿島台町から国道346線に乗り換え北上する。雨天時の3桁走行にも殆ど手応えが変わらないミシュランT63はスリップも実にイージーで乗り手に不安を感じさせない。この対応レンジの広さと懐の深さは未だに国産メーカーの追随を許さないと思う。高いアベレージで走行してゆくが直前の佐沼町でミスルート、記念館には2時前に辿り着く。



立ちんぼの009は初期のテレビアニメ版のカラー。原作は一貫して赤い戦闘服に黄色いマフラーだが、
初めてのアニメ化の際は子供達に主人公を区別させる目的で色が変えられたと言われる。


 漆喰塗りの門構えに「石ノ森章太郎ふるさと記念館」のカルプ文字(アクリル版を表面に張ったゴム系の板)が踊っている。第一印象は「すたれてきたかな?」。
 何故かと言えば記念館が二つある事が原因だろうか?。



門を潜るとごらんのような庭園がある。決して広くはないがそれなりに管理されている。
(写真を5枚繋いでいるので妙に広く見えるが)



庭園にはアートヴォールがある。
三角形の2面に別の絵が貼られ見る位置によって違う絵を鑑賞できる。


でも、頼むから見えるように清掃用具を置くのは止めて欲しい。品位とか以前の問題である。
せめて見えないようにして欲しい。

貼ってあるのは多分3M製スコッチプリント。当時の最新大判印刷だとは思うが、
何分屋外耐久性はそろそろなので、貼り替えをお願いしたい。
今度は表と裏で師匠と弟子とか・・?ちなみに作品は「サブと市捕物帖」。


仮面ライダー。氏の代表的ドル箱作品。
死んで尚、作品が作り続けられる。
今年、改めて新作映画化されたが。


ライダーの裏はスカルマン。裏仮面ライダーとして個人的に作品評価が高い。珍しく復習の為に生きるダークヒーローである。


人造人間キカイダー。ピノキオを下敷きにフランケンシュタインをフューチャーした
氏の渾身の傑作。特撮版は川崎重工がオートバイを担当した異色作となった。
原作の最後に良心回路が完成すると「人間と同じく嘘や同族を壊せる(殺せる)程に進化した」
というくだり、不条理は子供心に恐ろしいと思う程だった。




★009とサブ市は何故か両面。


★橋を渡ってエントランスに戻る。


★入口にはお祝いの1枚寄せ絵。
でも掲示方法に難アリ。
なんだよその不細工な木柱は?


 ふるさと町おこしの名の元、町がこの地に記念館を造ったのは2000年のこと、同僚漫画家やお弟子さんの協力も多くアットホームな雰囲気も手伝って初年・次年度は良かったが、2年後、石巻市が市営の「石ノ森漫画館」を造り石巻活性化の切り札としたのだ。
確かに石ノ森章太郎が高校時代を同市で過ごすが、
傍目に見ても便乗商法である。

 しかもふるさと館は
漫画家としての章太郎を再現するが、漫画館はより知名度の高いテレビ番組原作者としての章太郎を取り上げた。町と市の予算の桁も伴って今ではあっちが本命のようだ。
 なんてったって東映とタイアップ出来なかったオリジナルヒーロー「シージェッターカイト」(誰だそれ?)なるジェットスキーに乗ってやって来る専任キャラがいる程だ。掛けてる金が違う。
 だが、あえて言おう
「こっち(ふるさと記念館)が本家である」と。
 そういったわけで記念館には人影少なく、ここぞとばかりに正面にバイクを乗り付けアウターを脱ぐとまずは記念撮影である。しかし、そんな輩は見慣れているのか、通りすがりの町民の視線は実に冷静な感じがする。
 門を潜り、中庭に通ずる通路を歩くと中庭にテーマヴォールと呼ばれる騙し絵の壁画がある。騙し絵というか2方向から違う作品が鑑賞出来るアートパネルだ。
 氏の代表作ともいえるイラストが掲出されるが、笑えたのはやはり仮面ライダーとスカルマンが表裏一体となっていたことだろう。
 石の森章太郎の弟子である日本一熱い熱血漫画家島本和彦氏が引き継いで書いた作品「スカルマン」では、LASTで仮面ライダーに接続されてしまうのだ。これを造った当時に何人がこの結末を知っていた事か。
 特に撮影禁止の表示がないのでデータに納めてゆく。



平成ライダーに囲まれて石ノ森氏のパネルが飾られる。
至る所にキャラクターグッズが並んでいる。天井や柱に隠れるキャラを探すのも、面白いかも?




★手前から1/6スケールの仮面ライダーブレイド、右奧が555(ファイズ)、1号ライダー。
多分全部市販品。


★唯一オリジナルな町内地図。
いいのか、これで?


★二つのショーケースにあるオモチャは何と個人の提供品。ネット以外でコーラのライダーキャップ全部初めて見た。


★常設展示室入口。
内部は撮影禁止。


★クリアガラスの衝突防止にオリジナル性が見え隠れ。
右に光るは原作版ロボコン。


 館内に入り入場料500円を払うと、作家展のチケットもバンドルされている。
 誰の?と首を巡らし見ると、志賀公江と中山星香の二人展が催されていた。志賀公江はまだしも中山星香は得意ではない。家の奥方は「妖精国の騎士」のファンで収集してるが、正直連載中の作画が同人誌並でこれだけ有名な作家も珍しいと思っている。なのに何故か「妖精国の騎士全50巻」(11,1現在)は総て揃っている、うむぅ。

 展示物の入稿原稿を見せて頂いたが、主人公すら歪んで書かれて、しかもがっちりホワイト修正された主線、おいおい(江戸川コナン調で)晴海に来るサークルの女の子の方が漫画上手いぞ。
 カラーイラストなどは流石の出来だがトレペで一度修正転写されてるから当然綺麗である。
 Uの字に回る展示会場で志賀公江の展示物を回る。
 中山星香の生原稿とは一線を画したプロの仕事が見える。漫画家よりエッセイやコラムなどで引く手あまたの作家であるが、何で漫画書かないの?と思うくらい上手い。
 感動して展示室を出る。(あくまで私個人の主観なので決して作家を中傷してる訳ではありません、あしからず)

 でも原画展(とは言ってないけど)なら印刷物やコピーを生原画のように飾るのは如何なものか?と思いましたが。

 常設展示室に向かう際、チケットを買ったエントランスに出るが、ここはまるでオタクの為のフィギュア展示スペースと化していた。至る所に模型化、3D化した石ノ森キャラがいる訳だが、
どれも市販の物ばかりである。
 
入口の仮面ライダーアギトのマスクですらホビージャパンの広告で見たような物だ。清涼飲料水のキャップフィギュアに至っては、ただの大人買いである。
 
ショーケースに入る変身ベルトや超合金は、なんと個人の持ち物を盗まれないようにケースに入れて保護しているのだ。
 
やる気とか言う以前の問題じゃないだろか?おいら仮面ライダー(しかも平成版?)のオモチャ見に単車で来たんじゃねーんだよ。怒るぞゴラァ!

 常設展示室はうって変わって、キチンと趣旨に添った展示がされてあり、ようやく来た甲斐を感じていた。
 特に年代別、ジャンル別に別れた紹介があり、どちらかと言えば
原作を主軸とした展示で、石巻の記念館より確実に石の森章太郎の実像に近い。 が、石巻の漫画館と比べるとどうしても見劣りしてしまう。良くやっているとは思うが、圧倒的に展示スペースが小さいのだ。思想は高いのに記念館が付いてこないのは明らかだ。まあだからこそアットホームでいられるのかも知れないが。

 展示物の中で他の漫画家から頂いた色紙や扇子があったが、ここは大変笑える、特に原哲夫氏の書いたサイボーグ009は必見だ。島村ジョー以下お馴染みのサイボーグ戦士達はどう見ても北斗の拳にケンシロウの敵役で出て来そうなイキオイである。

 最後に受付のお姉さんに聞いてエントランスホールの撮影をさせて頂く(ここも実はカメラ禁止の表示が無かった) そう、受付のおねーさんも分家の方が印象深い。
なんてったって某石巻市外郭団体TMOの社員がコスプレ(社の制服なのか!>未確認)して場内を歩っているのだ。これはポイントが高い。(そういう問題か?<俺)

 さて中年の妄想はこの辺にして、
温泉逝くか。
 雨が止み、いっそう寒さを増した石森をあとに、一路三つ又温泉を目指す。



建物の裏にもう一つ中庭があり、雨に濡れそぼるジュンが生みの親の肖像にうなだれていた。
頬をつたう雫が涙にも思える。



 国道397号線を跨ぐ「石淵ダム」は重力式ロックウォールダムでは東北最初の物だと、何処で聞いたのだろうか?国道456・347号線から水沢市に入るも、そこは県道197・175・176を使って市街地を迂回、国道4号を横断して、クラブ時代からの抜け道「通称水沢高速(広域農道胆沢線)」に向かって西に進むがその前に国道397に合流。
 雨で遠回りとはいえ、国道に突入したのが4時半を回っていたのは、少々痛い。と思っていたら、なんと新しいダムの建設が霧雨の土曜日の夕方に絶好調で進められているではないか?タダでさえ狭いダムから上のルートで、国道の入れ替えや施設道の接続、電柱などの付け替え工事をしているである。足下の工事用鉄板はズルズルと滑り、アスファルトに撒き散らかされた赤土もまたズルズルと車体を倒してゆく。ピカピカのロードバイクなら工事事務所に怒鳴り込みそうだが、幸い気長なオフバイクだ。
 中央分水嶺を貫通する大森山トンネルを抜けると、秋田県十文字町だ。この峠を最後に通過して14年の月日がたっていた。あの時バイク3台で越えたこの峠を、たった一人で越える。一人はこの世を去り、一人は結婚して3人のママである。急速に流れる雲と合間から零れる光が活動写真のように蘇り、過ぎ去った日々に思わず目が眩み、タバコの灰が風で飛ばされてゆく。
おっと、時間がねえ。
 下りで工事のトラックに猛追を受けながら東成瀬村にたどり着く。携帯電話が復活し、旅館に遅くなると電話したついでに近道を教えて頂き辿り着いた。三つ又温泉である。



増感してどうにか状況が解る。建設中の新しいダム。