15日、夕刻。

 中央分水嶺を貫通する大森山トンネルを抜けると、秋田県十文字町だ。この峠を最後に通過して14年の月日がたっていた。あの時バイク3台で越えたこの峠を、たった一人で越える。一人はこの世を去り、一人は結婚して3人のママである。急速に流れる雲と合間から零れる光が活動写真のように蘇り、過ぎ去った日々に思わず目が眩み、タバコの灰が風で飛ばされてゆく。
 おっと、時間がねえ。
下りで工事のトラックに猛追を受けながら東成瀬町にたどり着く。携帯電話が復活し、旅館に遅くなると電話したついでに近道を教えて頂き辿り着いた。三つ又温泉である。



10.15・16 三ッ又温泉
Repo&Photo/MR

これが基本夕食なのか?。

山の幸と沢の幸に溢れる三つ又温泉の夕食。photo by tkhtさん

PhotoAlbum


★旅館の裏手にはいけすがある。部屋は階段を上がって2階の一番奥だった。


 早速部屋に通されると、当然私が最後である。はじめましてと軽く挨拶とお詫びを言いつつ部屋にはいると、お誘いをした首謀者?の
燦さん、クレンザー大佐、tkhtさんの3名は既におくつろぎモードである。
 テーブルにはビールと大佐が用意した中和用飲料とおつまみががっちり置かれている。
「うわぁ、やっぱり貢ぎ物は必要だよなぁ(爆死)」と急に心苦しくなるが、飯にしましょうの一言に救われる。
 夕飯は岩魚づくしである。多分私の生涯でこれ程岩魚を大量に食べたのは初めてだ、と思う。一晩で4匹だよ、燦さんを初めとして心ゆくまで満喫というか、食いきれない、いやマジで。
 出されたお酒も岩魚酒と実に充実した夕食だった。
 燦さんのお話・お人柄もさることながら、tkhtさんも逆立ちしてたし?蕩々と語る大佐の話も面白く拝聴した。
 温泉も良かった。静かになると水音が聞こえて、燦さんに「岩魚の跳ねる音だよ」と教えて頂いた。
 部屋に戻っても話は続いていたが、後日レポートに起こそうとすると断片的にしか覚えていない。実は酔っぱらって寝てしまったんだな?と思う事にした。


これが噂の岩魚のデングリ。

でん繰り替えして揚げる事からの由来だろうか。
二度揚げした岩魚は臭みもなく骨も柔らかく、頭から総て食べる事が出来る。
今回はゴージャスに一人2匹。


標準の岩魚の塩焼き。粗塩が効いてお酒もご飯も進んじゃうぅ〜!


岩魚を浸して日本酒を飲む。
その名も岩魚酒。

尺モノの岩魚のさしみ。
いわなの魚卵も初めて頂いた。刺身は山形米沢の綱木で頂いた以来だから12年ぶりに食しました。
美味!photo by tkhtさん

秋田名物きりたんぽ。作りたての為か凄くやわらか・なめらかでした。


ご満悦の仕掛け人。
(ホントに美味しそうに食べる人だなぁ)

三つ又温泉全景。

こぢんまりとした旅館だが、山間の旅館らしく味わい深い。
撮影位置には送迎バスの車庫があり、これまた良い感じに草臥れたいすゞ製バスが入っている。



10/16 day's

明けて2日目。
 旅館の方がオフブーツや防寒ウェアをボイラー室で干してくれていて、乾いた服に袖を通す事が出来た。源泉温度が23度程度の温泉はボイラーで加熱され、給湯されている。
 朝食を食べると4人でCoffeeTime。「朝食もそれなりに豪華でしたね」「今日はどちらに?」みたいな話をする。やがて各々に目的別の行動を初め、時折、空を仰ぐ。
 おいらも外に出る。昨夜、バイクを入れた送迎バスの車庫からBaja轟を出して車体を固定。バイクのチェーンにOILを挿して今日に備える。まとめた荷物を部屋から降ろしてバイクに積む。台風一過のような青空から恋い焦がれた太陽の光が私の元にやってくる。千切れたパンのような雲が、せわしく流れてゆく。


朝食。

朝飯にも岩魚が付く。おいらだけ特別に前夜食べ残したデングリと揚げ豆腐を頂く。
冷えてても、何故か美味しい。

 ゆったりと山下達郎を聴きながら小説を読んでくつろいでいた燦さんも、荷造りを始める。
tkhtさんも降りてきて、簡単な始動前点検。TDMはともかく6Rにセンタースタンドがあるは驚いたが、こんな時にはやはり便利だ。改めて燦さんのTDMのリアタイアを見ると、減っているとはいえ、よくもこんなインターミディットみたいな極太タイアで林道にゆくものだ。その潜在的技術と根性には頭が下がる。
準備が終わり、それぞれの目的地に向かってシールドを下げる。軽い挨拶。
そして、出発。
旅館の方に見送られ、再びロードに飛び出す。
皆さん、本日も良い走りでありますように。



比較的新型のヤマハ2台と草臥れたホンダ、写真にはないが大佐はなんと車だった。
何やら難しい単車もお持ちのようで、苦労が忍ばれるなぁ。
初日から晴れたら良かったのにねえ、大佐。


旅館の裏手はいけすというより釣り堀のよう。
水が綺麗じゃないとこうはいかない。

素晴らしいセンスを見せるtkhtさんの6R。
目つきの悪いバイク?に。


岩魚の軍団。尺物がゾロゾロいました。ヤマメのような模様もちらりと見える。




小鈴森林道支線入口。


★伐採道を繋いだかのような支線林道。


★上黒川の集落に出てくる。


★上黒川の集落を更に登る
三森山林道に到着。


★県境にはいっぱいの表示板。


★爺ちゃんの言ってた穴。
確かにバイクが食われそうだ。


 その僅か15分後、私は路傍で迷っていた。
目の前にある林道入口には名前も案内もなく、誰がどう見てもタダの伐採道にしか見えない。確かに道幅も並で車が入ってる様だ。しかし使われてる感が感じられない。秋田県の広域道路地図と睨めっこし、突入を開始する。この林道、林道小鈴線支線は 三つ又温泉前の県道40号線から   320号線を経由して上黒川に直接出るルートの更に内側をショートカットする林道である。結果から言えば時間的節約はなく林道が走れる以外にメリットは少ない。名前が無いので支線とのみ表記する。

 ただ、なかなかの楽しい道だ。2本もしくはそれ以上の伐採道を繋いだかのような道のりは変化が豊富で走って山の紅葉を見るに事欠かない。予定道り上黒川の部落に出ると、市道を北に約2Km程走りお待ちかねの大森山林道に突入する。入口のY字路で地元の軽トラのおっちゃんに声を掛けられる。「あっち側(岩手側?)の道路に穴が開いてる、気ィつけんしゃい」とご忠告賜る。ありがとうを言って、林道を駆け降りる。直ぐにT字路があるがそれも右に曲がる。
 三森山林道は二つの路地を過ぎると沢に向かって一時下る。橋を渡るとまさに仕切り直したかのように猛然と登り始める。植林部分からは道幅も景色も広がり、気持ちよくフルスロットルをくれてやる。
 おかげで登りの写真を撮るのをすっかり忘れてしまった程だ。ついカッとなって山頂付近で我に返る、ん〜、昨日の鬱憤をここで晴らしてしまった。上黒川側の箱庭風景撮影は次回にお預けとなる。頂上付近には4台程のバイクの集団が休んでいる。ロードバイクがいるなあ、成る程この路面なら十分走れるだろう。三森山登山道を過ぎると下りとなり、県境を通過、緩やかに道路は絞り込まれ半分の車幅になってしまう。途中幾らか崩れた箇所もあり、注意していると「あった!これかい爺ちゃん!」という感じで大穴発見。深さは1m以上あり路肩谷側に開いた穴から土砂が流れ出した跡もある。写真に納めて、さらに下ってゆく。


 湯川温泉・奧の湯の手前で小鬼ヶ瀬川を渡って舗装路に出る。丁度ヘアピンコーナーの横っちょに繋がる形だ。わざと広く取って、林道のつなぎ目に観光案内の看板が立っている。成る程、この先の舗装林道「小俣林道」は観光化されているようだ。今日はこの後折り返しの林道を1本用意しているので止めておこう。エンジンを起動させ、奧の湯温泉に降りてゆく。
 しばらく待避所付きの道幅1.5車線の舗装林道を川とともに下ってゆく。すると、唐突にバスの回転場とも旅館の駐車場とも取れるちょっとした広場に出る。バス停前でバイクをおりて写真撮影の為振り返ると、今来た道はまるで旅館の裏手の駐車場に行く様な感じで、とても県境越えの林道入口には見えない。


美しい佇まいを見せる森林鉄道橋脚跡と滝。

廃れ行く時間を止める術もなく、荒廃は年と共に僅かな歴史も緑の山に塗り込めてゆく。
人の英知のはかなさよ。



★奧の湯の三森山林道入口。
まるで旅館裏の駐車場の入口みたいだ。出てきでビックリ。


★よく見るとレール!
いわゆるナローゲージっつー奴かな?。


★排水はちゃんとしてる。壁の石組みは相当古い。


★線路の様な林道。


★この辺は深い渓谷。


★南本内登山道入口。


★林道は山頂へと進む。
打って変わって険しいルートに変わる。


★峠を越えると秋田に戻る。採石場まではこんな感じ。その先はダートラコースだ!


とことん山キャンプ場。温泉施設がある。


★場内にある立派な脱衣所。


 湯川温泉・奥の湯の路地を抜けると、再び小鬼ヶ瀬川と寄り添って湯田に下ってゆく。
 20分程でJR北上線ほっと湯田駅に到着、青森から来た青いアフリカツインの方と挨拶を交わし、休憩を終えると駅裏になる国道107号線に乗り、一路錦秋湖(湯田ダム)を目指す。県道1号線のT字路をダム湖沿いに進む国道に入ると、東進する右手には雄大な錦秋湖が顔を覗かせる。

 しかし勉強不足故にまさかこの先に向かう林道が実は林鉄の軌道上に重複して造られたものと、誰が想像しよう。
(いや、ちょっと考えれば予想がつくんだけどね。)この時はまだ知る由もなく、したがって県道113号線沿いにある森林組合の施設に当時の森林鉄道の資料館がある、なーんてコトは残念な事は後で知ったのである。錦秋湖にかかる天ヶ瀬橋を渡り、国道から僅か5分程で林道入口のY字路に辿り着く。
 舗装は道成にゆるやかな左カーブになっており、直進とまでは行かないが、取り残されたように右に入る山道がある。これが南本内林道だ。ちなみに左手に舗装路には大規模林道夏油湯田線の看板があり、初めて聞く林道名に心引かれる。そんなところに、おばさん3人組のトヨタカリーナが通りかかり、お話を聞くと通れないとの事なので諦める。
 南本内林道の入口を撮影してはたと気が付いた。
「街灯がレールで出来ている?。」
普通のレールより二回りは細いだろうか?林道入口には民家があり道路を挟んで斜向かいにある物置にも同じような柱が出入り口を塞ぐチェーンの支柱として使われている。勿論現役だ(爆)。

 思いもよらぬ状況に期待しつつ林道に突入する。
 暫く林道を走ると2重に南本内川に掛かる橋に出であう。しかしこれは、廃止された旧橋も比較的新しいコンクリート製の橋である。疑問を持ちながらも先に進む。妙に平らな段差や木々の薄い等間隔の路肩を確認すると「他人を見たら泥棒を〜」と言う訳じゃないけど、みな森林鉄道跡に見えてしまうのだから困ってしまう。大体林鉄に関しては大して知識がある訳じゃないんだから、と自分でも笑ってしまう。
 まもなく、大きな看板のあるT字路に出くわす。これで現在のおおよその位置がやっと掴める。そしてその直ぐ先の3重の滝の側に、当時の林鉄の橋桁とおぼしきコンクリート製の橋脚が美しい紅葉と共にMRを迎えてくれた。
 その崩れゆく美しさに、橋の上でしばし佇む。
 ここは丁度沢の合流点であり、南本内川の源流に流れ込む小板川とツル倉沢の合流点でもある。ここから道幅も狭くなりいよいよ林道らしくなってゆく。



 やがて沢とも別れ、林道は頂上付近の切り通しに向かってゆく。周りの木々は既に色づき、壮大な自然の衣替えは、いよいよ沢にづたいに里に降りようかという雰囲気の北風が峠を掛け下ってゆく。

 朝とは違った色合いの雲が散り散りに空を流れてゆく。
 峠に着くと隣の山に林道が別にある事に気が付く。しかし林道標柱はなく、名無しの林道が北西に向かって隣の山を縫ってゆく。地図を見て何と三つ又温泉のすぐそこに出る事に気が付くが、時計は既に1時を回っている。
 この続きはまた来年(え?マジ?)と言う事で今回はパスとする。昼飯も格別腹が減った感じではなく、これは最終的に一晩で岩魚など5匹を平らげたせいか?、そのまま走り出す。



 やがて舗装路が現れ、南本内林道も終了。標識を撮影して次に進む。先程から時間が気になり始めていた。
 予定ではこの三つ又温泉の三叉路(国道342・国道397・県道40)に昼イチと考えていたが実際には既に2時前である。1周に実に4時間近くかかってしまったのだ。しかもガソリン補給で隣の馳駆まで折り返すと時間はまさに2時を過ぎ、あわてて国道342号線を一路栗駒山に向かって登り出す。路面状況は良好だが「パワー足りねぇ!遅いぜこの俺!」と歯ぎしりしながら先を急ぐ。
             ところが、須川湖に向かう為に右折した県道282号線はなんと紅葉渋滞。国道398線の交差点は既に単なる駐車場と化し身動きが取れない。幾つか候補があったが時間が切羽詰まって来た為、何処か一つに限って温泉に入る事とした。そこで前にお邪魔した温泉付きキャンプ場に行く事にした。
 子安峡にあるとことん山キャンプ場は以前夏のキャンプツーリングで使ったキャンプ場である。


子安峡、とことん山キャンプ場

時間がないと言いつつ温泉で一服、一息付く。


さて、体が温まったところで逝くか。


 県道51線から県道310号線にアクセス。一路泥湯温泉から川原毛地獄に向かう。当初ここから徒歩川原毛大滝湯に行く予定だったが本日はタイムアウト。きけば徒歩往復で1時間以上かかりそうだ。やむなく今回は諦め、写真だけ撮って来た道を退散する。
 行き帰りともバスに邪魔され、想像の倍以上時間を食ってしまったのが敗因だ。で、戻った県道51号線から国道13号線に合流、道の駅おがちで夕飯を食べ、遙か遠い自宅への帰宅の途に付いたのだった。


川原毛地獄。

色彩のない世界は紅葉を見てきた故に、さならる鮮明さを持って写る。


エピローグ

 今回、お誘いツーリング参加と言う事でしたが、実際にはレポートの通り殆ど一人でツーリングという状況で、もはや単に宴会にバイクで出向いたとも言える内容でした。
 リンク先でもある兵庫の旅人シンさんもそうですが、今回の燦さんにしても懇切丁寧に企画され何不自由なく参加させて頂き、心暖まる思いです。
 こういったスタイルのツーリング(企画者はこの呼び名が嫌いだというが)というか宴会は、おいら的旅行の在り方にまた一石を投じる形となりそうです。
掲示板で、帰宅確認をしながら来年に思いを馳せるおいらでした。



地獄から戻ってきたBaja轟、いま閻魔大王に見送られ、三途の川をこの世に戻る。