ライダーと呼ばれる人種は、時として 否、実は深層心理の奥底に
「自由に駆けめぐりたい」
「己の赴くままに走り続けたい」
「一転突破に突き抜けたい」
という欲望がある。

しかし、
現実には、社会の一構成員として歯車のような生活を余儀なくされたり、
画一的かつ洗脳的なビジョンに否応なく飲み込まれたり、
他雑的かつ複雑怪奇かつ蔓科の植物的人間関係に埋め尽くされている。
押しつけがましい極めて偽善的な自己中心的妄想の他人の価値観に苛まれながら、
生きている。

それは、気が付かなければ幸せなことだが、
一度気が付いてしまい気に成り出すと、
自分でも手の付けられない夏風邪のように、猛烈にうなされてゆくのだ。
きっとこの日の二人もそんな感じだったのだろう、
と回顧する。
それは子供の様に、ただ只 突っ走っただけの僅かな夏休み。

070707'「つかの間のショートツアー」
in Aizu

 
Repo&Photo/MR







 早朝の学校奉仕活動を終えると,モトパンに履き替える。デジタル時計は容赦なく時を削って、焦る気持ちに拍車が掛かる。液晶の数字は末尾を45から46へと変える。
 オートバイの心臓に火を入れると、燻っていたのは単車の心臓ではなく自分の心だと気が付いた。想いを巡らす間に、今日試験走行となる◯TCは自己診断ルーティンを終了し、その結果を己の背中に内蔵したLEDがオレンジからグリーンに変化する事でライダーにアピールする。
「逝くか・・」
 常磐道から猪苗代湖が見える頃にはツーリングとおぼしきドゥカティ3台にも抜かれる、160は出てるかな?一瞬にして視界から消える。最後のトンネルを抜けると、雄大な磐梯山が全容を表す。今日もいい天気だ。
 先ほどのドゥカティ3台も猪苗代料金所だったようだ、苦もなく抜き去る。仲間を待っている先頭のM900が呆然とこちらを見送っている。
 国道115沿いに少し戻ると、いた居た!早速7-11の駐車場に青いマシンを見つける。

「遅くなりました〜」
「オハヨウ御座います〜」少年のように目を輝かせてSJ30Vさん。どうやら今日のご機嫌はVスペックのようだ。
「途中志田浜に白バイ居ませんでした?」
「いや、俺高速だから」ニヤリと視線を送ると、
「キタこれ!付けたんですねぇ」
「とりあえづ今日は耐久試験ということで」
「このまま林道へ?」
「そーだな〜?、まあ取り敢えずガス入れてきます」
朝食中のSJさんを置いてはす向かいにあるオープン間もないデビカリのGSで給油する。精算して道路に出ると速くもSJさんは単車を発進状態で待機している。
「ウズウズしてるよなぁ〜」思わず笑みが零れる。

 そして9時半に猪苗代を出た我々は、県道7号を塩川、そこから県道127号にチェンジ、交差するK21/K336も突っ切り、八幡の立木観音から塔寺の国道49号交差点に合流、七折峠をトンネルで越えて坂下インターの交差点を50分で突破する。


PhotoAlbum

★◯TCを付けてみた。

★熊注意。

★普通に舗装路。



★林道が常波川を渡り川に沿って登るところで、工事中通行止看板と真新しい舗装に出会う。


 しかしそこから津川までが移動、給油と30分以上掛かって仕舞い、林道の入口と言える新潟県道227号線の最終部落となる室谷で一服する頃には、しっかり2時間がたとうとしていた。ここで意見の相違を見たのは、
MRは林道通過
SJさんは林道往復
を目論んで居たところである。
 まあいきなり昨晩に決まったこの話、最初から破綻していた訳だが・・・?
「まあ、風呂は只見川沿いの何処でもイケるので、まづは通り抜けて、飯喰って考えましょう」
とMR。
 実はこの無計画さが更なるジレンマを生むコトになろうとは・・無論知る由もない。
「そーですね・・・」とSJさん。今考えると、1時間後には正反対の意見を聞くコトになるのだが・・・?。
とその時、林道の方から元パンを穿いた50歳代とおぼしき初老の方が山から下りて来て、林道の状況を教えてくれました。通過は確実のようだ、情報交換して再出発する。

 そして二人は、今年8月に再走行可能となった
「大規模林道本名津川線」に突入した。時計は11時半を間もなく指すところである。しかし、二人の予想以上に本名津川林道は「甘くなっていた」のである。
 津川側から林道inすると、予想以上に舗装路が延び、その状況から比較的新しい舗装工事で在ることが見て取れた。
「ここ、1〜2年かな・・・???」
だが、林道が常波川を渡り川に沿って登るところで工事中通行止めの看板と真新しい舗装に出会うと、二人の顔色はにわかに曇ってゆく。
「一体、何処まで(舗装は)続くんだ?」
 
常波川が遙か彼方の下に流れるようになっても断続的に舗装が続く。川が沢の様な状態まで登って来たが、ここまで8割方舗装である。
 例によってSJさんを先行させ、ゆっくり後追いしながら写真やデータを取って歩くMRお得意の戦略だが、流石にガッカリしたのか、見晴らしの良い所でMRを待っていた。
「さっきのオジサンに聞いていたが、ここまで舗装とは・・・」
「嬉しくない誤算だね」



★真新しい舗装が終わり、
漸くダートに。


★しかしまた、旧いながらも
舗装となる。


★延々と舗装、だが、
相当荒れてる。


★尾根沿いまで出ても、
まだ舗装が続く。



★本名津川林道を、3年間も息の根を止めさせていた大崩落。
SJさんのいる地点からおおよそ150mがそっくり落ちている。


 途中、本名津川林道に事実上3年近い通行止めを喰らわせた大崩壊部分に出る。
 成る程、山の斜面ごと道路が滑落したようだ、これは路肩補強だけでも難工事だわい。尾根沿いなのでエスケープも作れない。
 結局県境の直前1Km位までほぼ舗装。標高が上がる毎にテンションは下がり続けるという事態となった。
「俺の愛して病まない津川林道は・・・消滅しましたね」
頂上ではないが、県境の広場に到着した二人はヘルメットを脱いで、SJさんにタバコを頂きながらMRが呟いた。SJさんの吐く煙は胸元を彷徨い、霧散してゆく。
「ツマンナイ道になっちゃいましたね・・・、MRさん、下り(福島側)は?」
「一応未舗装と言うコトだが・・津川側も9割近く舗装だと危ないかも?」
写真を撮りながら受け答える二人の耳に、遠くエキゾーストが聞こえる・・・?
「2st・・?」
 
顔を合わせ、MRは再びカメラを向けると、青白のマシンが広場に飛び込んできた。続いてもう1台、緑のマシン。新潟ナンバーのCRMとKDXのお兄さん達と、情報交換して再出発する。
 福島側は延々と砂利道となり、たいした時間も掛からずにSJ30VさんはまさにVスペックの走りで視界から消えた。いや、消し飛んだと言うべきか?MRは相変わらず写真を撮りつつ、高原のような尾根沿いの箱庭を堪能する。いやほんと、ダートで良かった。
 しかし、思った以上に路肩や法面の崩壊があり、その度に100m・200mと舗装化している。いずれ近い将来には完全舗装化という最悪の事態に成りそうだ。



★尾根越え見えた!


★おお、他にもマシンが


★県境の表記がある。


★林道開削の碑がある。ここにくるのは8年振りか?。


 先ほどのお兄さん方に教えて貰ってはいたが、一応分岐から枝道に進んでみる。標識に「乙女の滝」とされるY字路で再びターン、降りてきた山筋から一つとなりの斜面を駆け上る。しかし地図通りに登山道入口でターンする羽目になる。
「この道は・・・地図に無いですね」
「伐採道の借用・使用許可表がありますね」
新規の伐採道だ。
「!」すかさずSJさんは登り始める。
 ビルの非常階段を駆け上がるような猛烈な斜度と荒れの急坂を登り上げる。直線の先に壁のように立ちはだかる急坂を登ると、踊り場のように180度ターンを繰り返す。ターンの合間に、今走って降りてきた本名津川林道の本道を一瞬、俯瞰する。
「高いな・・・」
一気に標高を上げてゆく、何処まで往くんだ?やがて尾根の西側から東側に移動してようやく普通の伐採道になる、と思ったら直ぐに土場にたどり着く、
デッドエンドだ。
 Uターンして先ほどの踊り場のようなヘアピンコーナーで休憩する。汗だくだ。
「これは面白い道ですね」
「さっきのお兄さん達の話にはありませんでしたよ?」
「知らなかったんでしょうね、まるでコースのような段差、直線があっても突然ガレてるし、退屈しない」
「なんか津川(新潟)側の仇を取ったようですねぇ」
一服しながら今後の行動を決めようと話を始めると新たな提案が出される。
「走り足りませんねぇ、風呂はいいから、どっか良いとこありません?」
どうやら今日は温泉より走りたいんだね!とちょっと温泉も捨てがたいMRだが、SJさんと走る機会も少ないし、今日は好きなように走って貰おう。
「そうですか?じゃあこの辺だと大窪林道あたりですかねぇ」
「走りごたえのある場所がありますか?」
「となりに界林道があります、ほぼ廃林道状態」
「いーねー」目が燃えてるよ、ヲイ。好きに走られると着いて逝けない可能性もあるなぁ・・・(涙w


★長いスパンの直線とヘアピンで構成される林道。
スピードが乗る。


★御神楽岳への分岐に到着。


★御神楽三条線の標柱がある。


★圧倒的なスピード。足回り&トラクションが違いすぎだよ。


「メシはどうします?」
「川口あたりで喰うか・・・・・今が1時過ぎだから川口で2時、飯喰って界、大窪林道2本で3時半・・下郷に4時過ぎだね」
「甲子林道逝きます?」
「甲子ね〜・・4時からでは辛いね、せめて3時には入らないと。羽鳥まで1時間半見ないとね
「MRさん、大窪と甲子ならどちらを走ります?」
勝負を決めに来たナ?
「甲子だね。来年(平成20年)に新道が完成すると、林道の通行止めは現実的だろう?。大窪はまだそういう気配はないもの」
「成る程・・・」
「昭和村経由、川口から400号線を一直線ですね、午後丸々時間があれば界・大窪・甲子と回れるけど、要は谷添いの舗装路か尾根沿いの林道か?というトコだろう」
「メシは下郷で喰いますか」
決まりだな・・・。
「いいですよ、400号線を1時間で走破すれば3時は下郷に着くので、それからでも」
「じゃ・・・・逝きますか?」
「ですね」
 意志が確定すると2台は速かった。もともとロード寄りのタイヤを履く零度に、トルクバンドの広いWRで本人曰くロード用というモトクロスタイヤの様なEDタイヤでよく着いてくる。パワースライドの走りは流石だ。
 下郷には3時前に到着した。SJさんが2度目の給油の間に食堂を探すが、3時という時間もあり空いているところはなかった。塔のへつりまで戻ろうかとも考えたがやはり遠く感じたので、やむなく非道隧道を正面に見つつ7-11の弁当となる。
「あそこにあるんですか・・非道隧道?」
「まあね・・・さて、逝きますか?甲子林道」

 国道121号線甲子道路は既に総てのトンネルが開通し、現在は関連接続道の工事が続いている。
 その一方で旧道となる甲子林道は既に補修することなく放置プレー全壊であり、舗装路すら草と苔に包まれていた。
古く傷んだ舗装林道を駆け上がり、倒木を避けると登山帰りのランクルプラドと擦れ違う。


★登山道入口でターン。


★新規の伐採道へ。


★見た目以上に激坂です。

★残念ながら繋がらず。



★ん〜、抜け道部分は 単なる脇道に進化してるぞ。


 頂上は相変わらずの通行止め岩石とすっかり路肩が通路と化したゲートがある。その路面にはまだ真新しい車のタイヤ痕が刻まれ、強者の通行が見て取れる。頂上のパーキングで一休みすると、MR・SJの順で、二人は迷わず突入した。

 甲子林道は見るも無惨な状況だった。
 前回の来訪は03年だったろうか?状況は大変厳しい状態だった。特に町境付近の断崖は法面も足下も崩れ、車両は
崩れ落ちた瓦礫の残骸を登って進む有様だ。
 道路経線も後退し、
末期症状である。
 さらに進むと尾根沿いの直線は生い茂る笹藪で目測の道幅は1mを切っていた。おかげで、かつての登山道でもあるY字路の確認は困難だ。普通の人は気づかずに進む事だろう。
 そのまま下り始めた林道は、それと同時に路面は急速に荒れ始め、ほぼ
枯れ沢と化した賽の河原はその事如くが拳大の浮き石であり、フロントタイヤなんか乗せようものならたちまち石ごと滑り出すのだ。
 左右から覆い被さる藪にスタンディングがやりにくく、腰が引けないので思い切ってゼロ加速状態から一気に加重を後ろに下げてゆく。
と、
突然のリバウ「だあっ!」
ついにETCユニットが弾かれる


★ここも無理繰り道路に仕立て上げられてるし。

★一息付いても・・・?


直ぐに追い打ちを掛けられるし。既に元の道路は谷底だ。


 
マジックテープで装着したユニットは幸い有線(爆)なので慌てて停車し、アンビリカルケーブルをサルベージしてもう一度貼り直す。流石に蓋が半開きだ。
「危うく特異点が剥き出しに成るところだった・・・(汗」
 釜房林道の通行止め標識を過ぎてさらに進むと、何やら車の影が・・・パジェロだ。
 あのトレッドマークはホント直ぐだったのね。
 丁度白い谷のガレ場に突入したところで、後ろから観察する。伸び切ったサスペンションと古い形式のボールナット式ステアリングが悲鳴を上げる音が静かな谷にこだまする。
「おおっと、横転か?」
「あ、危ねえぇ〜?」
 谷側に傾き、山側の後輪が浮き上がる。
危機一髪パジェロは持ち堪える。これはドライバーの経験値と根性だな?と思いつつ抜かしてみると、やはり老練なオヤジの仕業(神業?)であった。

「単独でよくやる・・」
 考え事は命取りである。先ほどの車の動きを反芻していたら、目の前の沢状の路肩にフロントを持って行かれ
転倒する。
「大丈夫ですか?!」
「ああ、俺は大丈夫」バイクを起こしてスタンドをかける。ああ、ミラーが逝っちまったよ、今年3本目かい!
「一服しましょう」


なにも見えまシェ〜ン。
photo by SJ30V


釜房林道終点。甲子林道終点。


飛び出せE◯C危機一髪!


★賽の河原状態。勿論転倒すれば、その川を渡れそうだが・・・。



「うわ、暑い!」
 
気が付くと一連の引き起こし作業で汗だくだ、つーか、その前にも大分冷や汗をかいたが。
無謀なライディングでしたからねぇ、ふつう下りで思い切り加速しませんよ」
「そーか?」
「俺なんて怖いから、こうトコトコと・・降りて来ちゃいましたよ」
 なーんて言ってるSJさんだが、付かず離れず一定の距離を保つのは容易ではない、ましてこの路面状況である。なにげに繰り出すそのテクニックは流石だ。
 二人が休んでいると、先ほどのパジェロが追い越してゆく、運転席のオヤジは実に楽しそうである。
 もう釜房と西部林道のY字路はすぐの筈だ、改めて二人はヘルメットを被り、走り出す。
10分をたたずして西部林道に出た。釜房林道入口のチェーンを整え、羽鳥湖方面に向かう。
やがて羽鳥湖スキー場の駐車場に到着、最後の休憩となった。
 時計は5時を指している、潮時である。雑談をしているとたちまち5時半を越える。
「帰りますか・・・・」
かくして、郡山市内で別れた時には時計は7時前だった。



★ん?何かいんぞ。


★1型のパジェロか?


★羽鳥スキー場に無事到着。お疲れ様でした。


自宅でのメーター読みは350Km程、
二つの名林道は流石に手強い。そう思われるツアーだった。
久しぶりに味わう短い子供への回帰は終わり、
また明日から子供の為の社会活動に追われる大人に戻るのだろう。
我が子と入る自宅の風呂からは、
明るいハーフムーンが輝いていた。